過去の演目

第24回 項羽(こうう)(阿紀神社)

あらすじ

舞台は中国、長江(揚子江)の上流、烏江(うこう)のほとりです。烏江の野辺で草を刈っていた男が家へ帰ろうと川辺で便船を待ちます。すると、そこへ一人の老人が船を漕ぎ寄せてきます。男が乗ろうとすると、老人が船賃を請求するので、自分らのように毎日この川を渡っているものは船賃を払ったことはない、と上の瀬に廻ろうとすると、老人は それではまず乗れとすすめます。ところが向こう岸について降りようとすると、またもや船賃をくれと言います。 男が約束が違うと怒ると、老人はいや銭でなくてもいいのだ、あなたの持っている美人草を一本欲しいのだ、と言います。男がそれは優しい物乞いだとその理由を問いただすと、老人は昔 項羽の后(きさき)虞氏(ぐし)が身を投げて死に、その死骸を埋めた塚から生えたのがこの草だと説明します。男がさらに項羽が漢の高祖と戦った時の様子を尋ねると、初めは項羽の方が連戦連勝だったが、裏切り者が出たため四面楚歌を聞く状況となり虞氏は悲しみに泣き伏して自害した。項羽も愛用の名馬が膝を折ったので、今はこれまでと自ら首を掻き落とし、この烏江の露と消えたと詳しく物語ります。 そして自分こそ項羽の幽霊だと明かし回向をたのんで消え失せます。

<中入>草刈り男が読経して、その後世を弔っていると、夢に項羽が虞氏を伴って現れ、最後の奮戦の有様を見せます。

見どころ

古代中国の武将項羽と、その寵姫虞氏の物語に材を取ったものです。2番目修羅物と同じ構成ですが、異国の伝説であるため5番目切能になっています。ワキが旅僧でなく草刈男になっているのは美人草を出すための用意ですが、ちょうど「敦盛」の前シテを逆に行った感じです。土地の人の前に、ある日突如 項羽の霊が出現するのはストーリーの展開の上でちょっと不自然な気がしますし、回向をするのが僧侶でないのでやはり常の修羅能とは違った雰囲気です。

前場では、通常は舟の作りものを出しませんが、出す演出もあります。後場に出る一畳台は城壁を表していて、ツレが前へ降りるのは身を投げた心です。三日月の面に黒頭、唐冠に鉾(ほこ)という後シテの扮装も源平の武将とは異なっています。ツレが身を投げた後、シテの<働>があります。愛人を失った項羽の悲しさ、口惜しさ、怒りの表現とみてよいでしょう。古書に「力の知れる能なり」とあります。

備考

古名を「美人草」とも言いました。美人草はヒナゲシのことです。ただ美人草というより、虞美人草といった方が、漱石の小説にもあるので、今日では馴染みがあります。

項羽は秦末の武将(前232~202)に劉邦(りゅうほう)とともに秦を滅ぼして楚王となりましたが、後、劉邦と不和になり敗北、劉邦は漢の高祖となります。

解説文:権藤芳一氏

その他の上演