過去の演目

第25回 鞍馬天狗(くらまてんぐ) 白頭(阿紀神社)

あらすじ

鞍馬山の奥、僧正が谷(ぞうじょうがたに)に住む山伏が、鞍馬寺の人々の花見があると聞いてやってきます。一方西谷の能力(のうりき)が東谷に使いに出ますが、ちょうど途中で東谷の僧が稚児を連れてやってくるのに出会い、持参した花見への招きの文を渡します。一行は西谷に来て盛りの花を眺め、能力も稚児たちの慰みにと小舞を舞います。 そこへ以前の山伏が忽然と現れます。何となく興をそがれた一行は、そのまま帰ってしまいます。一人残された遮那王(牛若丸)は山伏に声をかけ一緒に花を見ようと言います。山伏はこの少年が源氏の公達であることを知っており、その境遇に同情し、花の名所を案内してまわります。 牛若が好意に感謝をしてその名を尋ねると、山伏は、この山に住む大天狗であると名乗り、兵法を伝えるから平家を滅ぼすように勧め、明日の再会を約束して飛び去ります。

<中入>やがて小天狗が現れ、大天狗は牛若に兵法を教えたので、今度は自分たちが太刀打ちの相手をすることになったと、互いに稽古をします。やがて遮那王は長刀(なぎなた)を持ち、凛々しい姿でやってきます。そこへ大天狗が全国に名だたる天狗を引き連れて現れます。そして張良(ちょうりょう)の故事を語り、兵法の秘伝を授け、行く末の武運を守ることを約束して消え失せます。

見どころ

牛若丸の登場する能は、「烏帽子折」「安宅(あたか)」「船弁慶」「橋弁慶」などありますが、この曲もその一つです。前場は花のもとでの山伏と少年との心の触れ合い、後場は大天狗の勇壮な動作が見せ場になっています。子方が出ることによって対照的でさらなる効果をあげています。

天狗物の前シテは何れも直面(ひためん)の山伏姿ですが、この曲では特に淡々とした風格が内蔵されていなければなりません。開曲早々、ズカリと花見の由を語りますが、この名乗りで大天狗の貫禄を出し、牛若と二人となってからは、悲運の貴公子をいたわる庇護者としての優しさを見せます。この能を「恋慕なり」と記した古書さえあります。後シテは天狗本来の姿で登場し、面や装束にふさわしい力強さでいかにも天狗の首領と言った豪放雄大な動きを見せます。

天狗というのは仏説の増上慢を象徴した深山に住む怪人物だとされています。能に登場する「善界(ぜがい)」「大会(だいえ)」「車僧(くるまぞう)」などの天狗は、自分の力を過信して失敗する恐ろしい反面、そのこけおどしに一種のユーモラスなところもあります。しかしこの「鞍馬天狗」は源氏再興に力を貸す侠気の持ち主で 終始堂々としています。

備考

この能には牛若丸の他にたくさんの子方が出ます。この子方を<花見>と呼んでいます。能楽師の子供は歩けるようになるとまずこの役に出され、初舞台を踏みます。

解説文:権藤芳一氏

その他の上演