過去の演目

第12回 鉄輪(かなわ)(阿紀神社)

あらすじ

都に住む一人の女が、自分を捨てて新しく妻を迎えた夫の不実を恨んで、洛北、貴船の社に日参し祈願をかけています。今日も社前に進むと、待ち構えていた社人が「頭に鉄輪をいただき、その三本の足に火をともし、顔に丹を塗り、赤い着物をきて、怒る心をもてば、たちまち鬼となって願いがかなう」と神託のあったことを告げます。女は人違いだといいますが、そういう内にも顔色が変じ、つれない人に思い知らそうと走り去ります。

<中入>一方、下京(しもぎよう)の男は悪い夢見が打ち続くので、陰陽師(おんみょうじ)、清明(せいめい)のもとを訪れ事情を述べて占ってもらうと、女の恨みで今夜にも命が尽きるといわれ、急いで祈禱を願います。清明は祭壇を調え、男と新しい妻の人形(ひとかた)を作って置き祈り始めます。すると、悪鬼となった女の霊が現れ、夫の心変りを責め、後妻の髪をつかんで激しく打ちすえますが、守護する神々に追っ立てられ、神通力を失って、心を残しながらも退散します。

見どころ

嫉妬の末、鬼女となる女の激しい執念と、また一面、男への捨てきれぬ思慕の心を主題とした能です。同じく女の嫉妬を描いても、「葵上」は、王朝文芸の『源氏物語』に材をとり、高貴な女性としての優雅さと品位がありますが、この曲は、庶民の女性が、男の不実を怨み、相手の女ともども呪い殺そうとする生々しい怨念を、古くから日本にある民俗信仰の丑刻詣(うしのときまいり)の呪詛(じゅそ)をからませて描いた異色の作品です。

前後二場構成になっていますが、前場は筋を運ぶだけの簡単なもので、狂言口開(くちあけ)という形式で状況を説明しておき、都の女が登場すると社人はすぐ神託を告げて逃げ去ります。都の女も出てきてすぐ退場するのですが、道行(みちゆき)の謡、社人から神託を聞くや激しい鬼気を漂わせて、笠を捨ててキッと正面を見込み、体をひるがえして幕へサッと走り込みます。この時、身の毛もよだつような凄味を感じさせねばなりません。後場、祈禱台を表す作り物が出ます。その棚には、侍烏帽子と髢(かもじ)をのせます。これは男女の人形を象徴するもので、この祭壇が後半の演技の焦点となります。

前シテは「葵上」同様〈泥眼〉(でいがん)という、まだ恨みの内へ籠った面をつけますが、後シテは〈橋姫〉という憤怒と怨恨に燃えた表情の面をつけます。そして、頭には神託に従って、鉄輪(ごとく)をさかさまにして、その三本足に小さい松明(たいまつ)をつけた鉄輪戴(かなわいただき)をつけて登場します。この扮装は他には用いません。激しい怒りの中にも「ある時は恋しく又恨めしく」とシオル型は、やさしく哀れな女心を見せる大切な箇所とされています。

備考

古名は「貴布禰」(きぶね)といいました。

解説文:権藤芳一氏

その他の上演