過去の演目
第22回 敦盛(あつもり)(文化会館)
あらすじ
一の谷の合戦で、当時16歳の平家の公達(きんだち)平敦盛を討ち取った熊谷直実(くまがいなおざね)はあまりの痛ましさに無常を感じ、武士を捨て出家して蓮生(れんしょう)と名乗ります。彼は敦盛の菩提を弔うため、再びかつての戦場 摂津国(兵庫県)一ノ谷を訪れます。すると、笛の音が聞こえ数人の草刈り男がやってきます。その中の一人と笛の話をしているうちに、他の男たちは立ち去りますがその男だけが居残っているので、蓮生が不審に思って尋ねると、自分は敦盛の例であることをほのめかして消え失せます。
<中入>蓮生は散策にやってきた須磨の浦の男に、一ノ谷の合戦、敦盛の最期について語ってもらいます。そして自分は熊谷次郎直実であり、今は出家して敦盛の菩提を弔っているのだと明かすと感心し、回向(えこう)するように言って去ります。蓮生が夜もすがら念仏を唱え、その霊を弔っていると、武将姿の敦盛の亡霊が現れ、平家一門の栄枯盛衰を語り、笛を吹き、今様を謡った最後の宴を懐かしんで舞います。続いて敦盛は討死の様を見せ、その敵に巡り会ったので仇を討とうとしますが、後生を弔っていてくれる今の蓮生法師はもはや敵ではないと 回向を頼んで消え去ります。
見どころ
年若くして戦死した敦盛への同情と、彼が日常音楽を好み、討死を前に舞を舞ったことから歌舞的な要素に重点を置いた修羅物です。
修羅能の主人公は普通<カケリ>を舞います。これは修羅道に落ちた武士の苦患(くげん)のさまを表現するものですが、この曲に限って女性が舞うテンポの静かな<中の舞>を舞います。敦盛の武士としてより、音楽好きの貴公子という面を強調しようとした世阿弥の意図なのでしょう。修羅物に舞を入れたのはこの能が初めてだろうと考えられています。
前場には特に見せ場というほどの箇所もありませんが、修羅能の前シテとしては珍しく直面(ひためん)でツレも3人伴って登場します。刈草を挟んだ竹を携え樵歌牧笛についてシテとワキの掛合いのあたりに、牧歌的なのどかさが伺われます。後場では武将姿で舞う<中の舞>が眼目です。その前後には文意にあった所作のある型所があります。前の舞グセでは貴公子の可憐さ、後のキリでは若者の凛々しさを見たいものです。
軽い味わいでありながら風情のある能です。
備考
ワキでただゆきずりの旅僧でなく敦盛を討った熊谷にしていることも特異です。ワキがシテとゆかりのある人物であるという設定は他にもありますが、この二人の関係ほど決定的なものはありません。後シテのつける<十六>という面はいかにも16歳の少年の表情を捉えています。