過去の演目

第14回 殺生石(せっしょうせき) 白頭(文化会館)

あらすじ

玄翁(げんのう)という高僧が、能力(のうりき)と奥州から都に上る途中、下野国(しもつけ:栃木県)那須野の原にさしかかったときのこと。空を飛ぶ鳥が、とある石の上を通ると落ちるので不審に思っていると一人の里の女が現われます。その女の言うには、その石は殺生石といい、人畜を害する恐ろしい石だから、近寄らないようにと注意をします。玄翁がその由来を尋ねると、女は次のような話をします。 「昔、鳥羽院につかえていた玉藻ノ前(たまものまえ)は、才色兼備の女性で、帝もお気に入りだったが、実は化生(けしょう)の者でした。帝を悩ませようと近付いたところ、その正体を見破られてしまいます。最後にはこの野に逃げたものの殺されてしまったのでその魂が殺生石になってしまったのです」。 そして、実は自分はその石魂であり、夜になれば懺悔のため姿を現すと言い残して石の中に隠れます。

<中入>玄翁は供養のため石に向かって仏事をなし、引導を与えました。すると石は二つに割れ、中から野干(やかん:狐)が現われます。野干は、天竺(インド)では班足太子の塚の神、大唐(中国)では幽王の后(きさき)となって世を乱してきました。さらには日本にわたり、この国をも滅ぼそうと玉藻ノ前という美女に化けて宮廷に上がりましたが、阿倍泰成(あべのやすなり)に見破られます。その後、都を追われた野干はこの野に隠れ住んだものの、ついには狩りだされ射殺されたのでした。殺生石はその執心でしたが、今 玄翁の供養を受けたことで今後悪事はしないと誓って消え失せていきます。

見どころ

舞台正面奥に据えられた殺生石を現す作り物が特徴的です。前シテはこの岩の後ろで装束を変え、野干の姿になって二つに割れた岩の真ん中から飛び出すわけです。小書によってはシテは幕へ中入し、この石の作り物を出さない演出もありますが、後見が二人、両側から石が割れたように作り物を倒していくのは稚拙な趣があって捨てられません。

切能ですが、前段は三番目物的な風情があります。野干の化生で鳥羽院を悩ますのですから、妖艶さと凄みが漂ってしかるべきなのですが、反面、毒気のある石に僧を近づけまいとし、かつての所業を悔いて成仏を願っているのですから、害心はありません。三国を股にかけた稀有の妖怪を扱った鬼畜物にしてはやさしくできあがっています。後段の壮絶な狐狩りの再現は、詞章にあったキビキビとした所作で、胸のすく思いがします。

全体にスッキリと渋滞のない構成で、前段の居グセもサッと進み、舞事の類もなく、手強く嫌みのない曲です。過去に退治された鬼畜の亡霊が現われるのは、現行曲中「殺生石」と「鵺(ぬえ)」の二つだけです。

備考

廃曲の中に「現在殺生石」と「野干」という類曲が二つあります。いずれも「殺生石」より後にできたものです。歌舞伎、人形浄瑠璃にも、この話を発展させた作品がいくつも書かれています。

解説文:権藤芳一氏

その他の上演