過去の演目

第6回 葵上(あおいのうえ) 梓之出(文化会館)

あらすじ

左大臣の御息女で光源氏の北の方である葵上が物怪(もののけ)に悩まされ寝込んでいるので、貴僧高僧を召して加持祈祷を行ったり、様々な医療を施してみたが一向にその効き目がありません。そこで朱雀院に使える延臣が梓の弓によって亡霊を呼び寄せる呪法の上手である照日ノ巫女に命じて、怨霊の正体を占わせます。すると梓の弓の音にひかれて源氏の愛人であった六条御息所の生霊が破れ車に乗って現れます。そして、源氏の愛を失った恨みを綿々と述べ、葵上の枕元に立ち寄って責めさいなみ、幽界へ連れ去ろうとします。

<中入>臣下は、ただならぬ様子に下人を呼び、横川の小聖(こひじり)という行者のもとへ走らせます。急ぎ駆けつけた行者がさっそくに祈祷を始めると、御息所の怨霊が鬼女の姿で再び現れ、行者を追い返そうとして激しく争います。しかしその法力には抗えず、ついに祈り伏せられ、悪鬼さながらの怨霊も心を和らげて成仏します。

見どころ

高貴な女性と恋の妬み、嫉妬の執念を主題としています。シテの六条ノ御息所は皇太子夫人で、今は未亡人という地位の女性ですから嫉妬に狂う凄惨の中にもシットリとした品位が必要とされています。

曲名になっている葵上は病臥している態(てい)で、舞台正先(しょうさき)に折り畳んで置かれた小袖によって象徴されます。これは<出小袖>といい能の優れた演出法の一つです。

前半の終わりの<枕之段>と呼ばれる部分は文章も節付けも流麗で、型も文意にあったきびきびした動き。シテの感情が最も高潮する場面で息もつかせません。

枕之段に入る前の<クドキ>の部分も、型はありませんがじっくりと謡を聞いてください。怨霊と行者とが争う<イノリ>が後段の見どころです。

シテは前段では<泥眼>、後段で<般若>の面をつけます。これは嫉妬の情がまだ内側で渦巻いているときと、烈しく外へほとばしり出たとき、恨みの感情と怒りの感情を外形的に表現し分けている訳です。

備考

近江猿楽系で演じられていた能を世阿弥が改作したもので、現行の演出にいたるまでにもいくつかの改訂があるようです。

古くは前シテの登場に、破れ車の作り物を出していたようです。また本文にある"青女房"が御息所の従女としてツレ役で登場していました。現在、シテとツレ(照日ノ巫女)の掛合いの謡になっている部分は、本来シテともう一人のツレ"青女房"とが謡うべきものです。また後場でシテと地謡とが掛合いで謡う祈祷の言葉も、古い演出ではワキが謡っています。その方が理屈に合っているわけです。

解説文:権藤芳一氏

その他の上演