過去の演目

第2回 小鍛冶(こかじ)(阿紀神社)

あらすじ

一条帝がある夜 不思議な夢を見られたので、橘道成を勅使として当時名工として有名な三条ノ小鍛冶宗近に御剣を打つことを命ぜられます。宗近は宣旨(せんじ)を承りはしたものの、優れた相槌のものがいないので途方に暮れ、この上は奇特を頼むほかはない、と氏神である稲荷明神へ祈願のために出かけます。すると一人の童子が現れ、不思議にもすでに勅命を知っており、君の恵みによって御剣は必ず成功すると安心させます。そして和漢の銘剣の威徳や故事を述べ、特に日本武尊(やまとたけるのみこと)の草薙剣(くさなぎのつるぎ)の物語を詳しく語って聞かせ、神通力によって力を貸し与えようと言って稲荷山へ消えてゆきます。

<中入>宗近は七五三縄(しめなわ)を張った壇をしつらえ支度を調えて、祝詞を唱えて待ちかまえます。すると稲荷明神の遣わしめの狐が出現し、相槌となって御剣を打ち上げ、表に小鍛冶宗近、裏に小狐と銘を入れ勅使に捧げると再び稲荷山へと帰っていきます。

見どころ

一種の稲荷霊験譚です。祝言味の濃い内容で、切能らしくきびきびとしたテンポでストーリーが展開していく佳作です。前段の草薙剣の物語の部分は三段グセという類のない長丁場で、余程うまく運んでゆかないとダレた締まりのないものになりますが、謡としての聞かせどころでもあります。型としては〽尊は剣を抜いて」から急ノ段が見どころで、扇を剣に見たて、その文意に従って草を薙ぎ火を払う所作を演じ、日本蕪村の英姿を彷彿とさせます。特に〽失せてんげり」と拍子を一つ踏むことで数万騎の夷(えびす)どもが一斉に逃げ失せた感じを見る者に与えます。後シテは<小飛出>の面、赤頭に狐戴をのせ、半切法被で長柄の槌を持つという独特の扮装で、縦横に<舞動>を見せ、また狭い一畳台の上にワキと共に乗って剣を打つ型を見せます。終始きびきびと渋滞なく、晴れ晴れしく爽やかに運ぶことが肝要です。後年、歌舞伎や文楽にもなっているので、お馴染みの曲です。それだけ、わかりやすく、いい意味での大衆性を持っている能です。曲柄としては決して重い曲ではありませんが、技のきれる人がやってこそ面白味の出る能です。

備考

人気曲として上演頻度も多く、従って様々な異なった演出も考案されています。観世流では、常の赤頭の他に<白頭>は年を経て神通力を得た狐、<黒頭>はさらに位のある霊狐とした感じで演じます。喜多流の<白頭>では狐足という細く高く足を踏んで、しかも音を立てないという狐の生態を写したような型があります。祇園祭の長刀鉾の鉾頭の長刀は、小鍛冶宗近の作と伝えられています。

解説文:権藤芳一氏

その他の上演