第29回(令和5年)あきの螢能 特集
日程:令和5年5月27日(土)
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- あらすじとみどころ 能/花筐(はながたみ)
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越前国(福井県)味真野(あじまの)におられた大迹部ノ皇子(おおあとベ)は、皇位を継承されることになり、急に都へ上られます。
それで皇子は、日頃御側に召して寵愛されていた照日ノ前のもとへ、使者を送って別れの文と花筐をとどけさせられます。
その文を読んだ照日ノ前は、形見の花筐を抱いて悲しく我が家へ戻ってゆきます。<中入>
その後、皇子は継体(けいたい)天皇となられ、大和国(奈良県)玉穂に都を移して、まつりごとを行っておられましたが、ある日、紅葉狩の御幸に出かけられます。
一方、照日ノ前は、恋慕のあまり心が乱れ、侍女を伴って旅に出、はるばると都へとやって来ます。そして、たまたま御幸の行列に行き会います。
朝臣が、見苦しい狂女とばかり払いのけるはずみに、花筐を打ち落します。照日ノ前は、それは帝の花筐であるといってとがめます。
朝臣がその理由を尋ねるので、彼女は、皇子がまだ味真野におられた時、毎朝天照大神に花を捧げ天長地久を祈られた事を語り、恋のかなえられぬ悲しみを嘆きます。
天皇の御車からお言葉があったので、彼女はつづけて、李夫人の故事を物語って、自分の思慕の情を訴えます。
天皇が、その花筐をとり寄せて御覧になると、確かに見覚えの品なので、照日ノ前であることがわかり、狂気を収め、もとどおり側に居よとの宣旨に、喜んで一緒に皇居へと向います。【みどころ】
恋慕の狂乱を主題とした能ですが、天皇と女御の在野時代の恋を扱った点が特異です。
前場に狂乱の原因となる別離を描き、後場で相手がまず登場し、ついで狂女となった主人公が出て、クルイを見せ、やがて再会してハッピイエンドに終わるという、狂女物の最も典型的な構成になっています。
能の狂女=物狂は、今日のいわゆる精神病患者とは一寸ちがいます。そして妙に理屈っぽいところがありますが、照日ノ前は特に気丈夫な女性として描かれています。
そのためか、偽りの物狂だという解釈もあります。
とにかく、狂女といっても、恋慕の相手が時の帝であること、自分も遠国者とはいえ侍女を伴っている程ですから、狂女物の中でも最も品位があり、幽艶な風趣に富んでいます。
「李夫人の曲舞」は観阿弥の作った独立した小品です。これをサシ、クセの部分に借用しています。
漢の武帝が、愛した李夫人の死を嘆き、甘泉殿の壁にその姿描かせて朝それを眺め、また反魂香を焚いてその面影を呼び戻したという、当時有名だった哀話を曲舞にしたものです。【備考】
「筐」は竹で編んだ目の細かい籠の意で、花筐とは花籠のことです。記念の品を形見というのは、この物語がもとだと本文では説いています。金剛流では「花形見」と書きます。
「能楽手帳」権藤芳一より
- あらすじとみどころ 狂言:文山立(ふみやまだち)
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二人の山賊が旅人を追って勇ましく登場しますが、結局獲物を取り逃がしてしまいます。互いに相手の不満をあらわにして口論になり、ついには果し合いを始めます。しかしこのまま死んでは、見物人もなく犬死同然なので、遺書を書き残すことを思いつきます。その遺書を改めて読み返すうちに、後に残す妻子のことを思い、二人は泣き出してしまい・・・
「山立」とは山賊のことです。恐ろしいはずの山賊が命を惜んだり、自分の書いた文に涙を流す姿が笑いを誘います。動きあり、謡あり、舞ありで、小品ながらよくできた作品です。